2012年3月アーカイブ

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相変わらず持ち家数は増えているが、ここに来て民間の賃貸住宅居住者が激減した。2005 (平成17) 年から2010(平成22)年に掛けて14%も落ち込んだ。データは居住世帯の数の激減ではあるが、実はそれだけ民間賃貸の空き家が発生したことで、事態は穏やかではない。実数としても2,500戸程の空き家が発生していて、それまでにある空き家も加えると相当の空き家が発生していることになる。2008(平成20)年の住宅・土地統計調査の多摩市の賃貸用空き家は3,570戸となっており、さらに5年前の2003(平成15)年の民間賃貸住宅の空き家3,250戸と比較しても高々320戸の増加なのにもかかわらず2,500戸の増加は相当、民間賃貸住宅市場を冷えさせていると想定できる。実際、持ち家住宅の空き家も2003(平成15)年の空き家数590戸から2008(平成20)年は1,600戸と3倍に延びており、中古不動産そのものの流動化が停滞していると考えることもできる。

持ち家の空き家率がそれでも5%程度なのに対して民間賃貸住宅は公的賃貸住宅を割り引いて推計しても25%に達していると見られ、こうした空き家の活用が急速にまちづくりの課題へと登ってくると思われる。何が原因か、どのような住宅が余っているのかを探るのには実態調査が必要だが、こうした民間賃貸住宅を活用した『安気な住まい』の可能性も広がってくる。不動産事情の大変革が多摩市にも押し寄せた恰好だが、正に既存ストックを活用したオープンビルディングの考え方が求められている時代である。都市の資産を有効活用して、そこに住み続けることの出来る町にアレンジしていく役割、それが地域で活動するNPOなどの専門家集団であることも確かだ。

こうしたグラフを見ていくと、不動産業界に周知していない者には驚きと写るが、当事者達の意識は如何なるものだろう。身近にいる賃貸物件を扱っている不動産業者に聞いてみようと思う。そして、真相を探ってみるのも面白い。国勢調査によると、一人世帯の急減という実態が有ったので、若い世代が比較的安価になったワンルームマンションをさらに利便地区を目指して移動した結果かなと思っている。だからワンルームマンションの空きが増えたというのが落ちだろうとは思っているのだが、本当のところは解らない。気になるな?っ。

基本的に住まいは「所有権」ではなく「賃借権」が良い。というのは高齢化した場合に「所有権」に業者が群がって自主的な判断を失わせる可能性があるからだ。

ある時、思い立って老人ホームの門を叩いた。日頃の生活の支えが心配になって、近くに出来た有料老人ホームに声がけしたら、それからの攻勢は日常的な親切が始まった。電話での声がけに始まり、資産の処分相談、そして食事サービスを提供するという施設へのお誘い。体験入居も予定する部屋も提供され、隣戸への挨拶と犬のいることの承諾などが繰り返し続く。親切だからと断れないまま契約まで進んでいく。シナリオに沿った営業行為が続く。入居金1800万円、部屋はワンルームと小さい。「あのホームには洗濯機が無いが、個々には部屋に付いている。食事の世話も医療施設も24時間体制が整っている。」謳い込まれたセールストークは完成して入居者が決まらない部屋が埋まるまで続く。決して入居者のためではない事業者の為のセールストーク。それが解らないのがつらい。

今住んでいるマンションを処分するという予定を話すと、提携だという不動産業者が尋ねてきて、言い値で査定するという。断り切れないのでネット公開を承諾すると、今度は客が付いたという返事。希望価格の確保は難しいという説明と2割減ならば契約するという話。「所有権」から「終身利用権」に移行したとたんに、もう元の住宅には戻れない。そこが業者の狙い。「所有権」を処分してしまえば「終身利用権」や「賃借権」を買うしかない立場になる。その為の攻勢である。

高齢者を食い物にするやり方は、いくら最初に高邁な理想や理念を持った活動であっても、売れ残る不安には節操のない営業になってしまうのが世の常。だから「賃借権」から「賃借権」が望ましい。「所有権」をまず「賃借権」にする。つまり持っている資産を賃貸に出すと「利用権」にかわる。そして自分も賃貸型の老人ホームに「賃借権」で入る。費用面では見かけ上は多額な入居金を積む方がやすく見えるが、トータルは同じ。「生涯面倒を見ます」の約束は「賃借権」でも同じ。寿命がまちまちだから平均が取りにくいのだが、それこそ高齢者用の「(仮称)老人用生命保健」に入ればいい。掛け捨て型のものであればある程度の保障は出来る。「100歳まで生きたらどうしよう」と不安になる欲張りがホーム側のトークに負ける。もう良い、どうぞ多額な入居金システムでお入り下さい。貴方にとってそれが安心ならばそれでも良い。もうこれ以上は言いたくない。

『安気な住まい』は「賃借権」型の住宅にしたい。そして生涯住み続けることの出来る仕組みにしたい。適切な資金計画とコミュニティがあり、地域で見守られる仕組みが欲しい。落下傘のように入ってくる業者に折檻されるのではなく、地域で見守りのあるコミュニティを作りたい。それが望みだ。

持ち家同様、賃貸物件の相場も下がり続けている。おなじみ桐生市の平米単価は700円である。多摩ニュータウンの人気の南大沢駅徒歩8分が、124平米13.9万円で借りられる。平米単価は1100円。子育てはせいぜい10年か15年である。面積が少し狭くて良いなら、同じ団地で81平米9万円というのもある。「どうせ親の資産が舞い込んでくるのだから無理して新築買う必要は無い」というのが私の意見。全額を35年ローンで3000万円の住宅買っても15年後には元金はせいぜい1000万円は払えるかどうか。2000万円は元本が残っていて、その時の中古価格は運良くても2000万。何とかチャラになっても、支払った総額は家賃総額より大きいはず。賃貸ならば9万円の家賃と管理費ですむが、持ち家ならば10万円の住宅ローンに不動産取得税や登録免許税、そして毎月の固定資産税と修繕積立金が加算されると毎月13万円以上の支出になるはず。その差額は大きい。

こうした不動産事情に消費者は敏感に反応する。より利便性を求めて動くので、大きく見ると大都市集中が更に進むし鉄道駅からの徒歩圏に人気が高まる。駅と言ってもローカルな駅ではなく大都市圏の利便性の高い最寄り駅。少なくとも時刻表を気にして乗るのではなく、いつでも行けば乗れるという感覚の駅利用が常識の世界になる。郊外は人気が薄れて人々は離れていくが、その時の郊外とは何かを知ることがこれからの地域の盛衰を占うことになる。その時多摩ニュータウンはどうなるか。こうした議論をすると必ず二つに分かれる。それが面白い。私の立場は「多摩ニュータウンは更に利便地区になる。」と標榜するポジションにある。交通網や環境整備の充実、新規住宅の供給と共に既存住宅の質の向上。そして地域経済を支える裕福な居住者の集中で地域経済は潤うと考えている。

今後の日本経済は「衰退か安定か」の時代にはいる。多摩ニュータウンは安定した社会が持続する地域になる。嘗ての右肩上がりの状況ではなく、基本的なストックの活用による安定社会が到来する。少しずつ前進し、少しずつ後退するという一進一退の状況が安定を生む。リニア新幹線や小田急線の複々線化は良いニュースだが、世帯の縮小化や高齢化、建物や基盤整備の老朽化は後退要員になろう。こうした進退のバランスがこれからの地域経営の舵取りのポイントになろう。多摩ニュータウン経営に注視した地域のマネジメントを始めようと考えている。地域経営を大局的に見る組織が多摩ニュータウンにはない。東京都がコントロールという立場ではあるが、多摩ニュータウンエリアに限定することも出来ず、散漫な視点での地域経営は余計迷いを生む。ここは多摩ニュータウンにしっかり軸足を置いた経営計画が必要で、多摩ニュータウン全体の協議会かエリアマネジメント組織を立ち上げたいと思う。

一寸、唐突な提案だから、みなさん、びっくりするかも知れないなと思いつつ・・・。

先日見つけた群馬県桐生市の中古物件は中古の一戸建てだが築22年余りで比較的良質に管理されていて、なんと床面積は320?、敷地面積5,600?の物件。それで1,300万円は驚きだ。価格的に驚きだったので、事故物件ではないかと思われる方もいるかもしれないが、以前にも土地2300?、建物120?、600万円という物件があり、すぐに買い手が見つかったようなので、今回も情報が出て間もなく買い手が見つかるとは思うが、なにしろ思いがけない規模で、桐生市内でコレクティブハウジングやコーポラティブ住宅を企画している身としては、「既存住宅の利用での道もあるな」と改めて思った次第である。

部屋数も10室もあるので個室が充分取れるし、食堂も広いのでみんなでの食事も出来る。多少の設備の改善を行えばコレクティブハウジングは簡単だ。後はそこに住みたい人を集めるだけだ。バス停も50メートルと近く、公共交通も整っているし隣接して老人ホームもリハビリテーション病院もあり、介護支援の環境も整っている。こんな物件は滅多にないと思わせる条件は整っている。不動産広告の備考欄には「広大な敷地の山林・作業所付中古住宅!自然環境に恵まれた静かな住環境です。間取りも余裕たっぷりで様々な用途に使えます!価格相談可能です。」と書かれていて、「そうだな?」って感心してしまった。実際には買うことも出来ないので問い合わせは控えたが、一度は見てみたい物件ではある。

群馬県下の不動産事情を不動産総合情報サイトのat home webで見てみると、一戸建ての中古物件で4LDK以上の物件価格は桐生市が最低のようで、不動産価格全体に低下していることがわかる。とりわけ谷合の低地部に展開する住宅に人気が無くなっているように見受けられる。山間部に入り込んだ桐生市の幹線道路は基本的に広域的な道路ではなく、地区内交通の処理のみの道路であり、どうしても行き詰まりの印象を免れない。つまり、不便だということと広域的なアクセスとしての利用価値がないという結論になるようだ。今回の物件も倉庫付きの事業併設用地で、現地写真では広い空き地に輸送用の木製パレットが積まれており、輸送関係の商売を営んでいたと思われる。結果として、倉庫も従業員もいたのだと思われる住宅も含めての処分になった理由は、想像に難くない。

不動産価格の低迷は地方部だけではない。多摩ニュータウンからほど近い八王子市寺田地区のマンション価格の低迷は顕著である。1982(昭和57)年2月築の98?の公団分譲の物件。5階建ての3階で1,280万円という価格。最寄り駅からバス便という理由で敬遠されているようだ。同様に町田市小山田桜台の98?の物件。賑やかな町田駅からのバス便だから比較的便利だと思うのだが1987(昭和62)年3月築1480万円の価格はかなり私の予想を下回っている。

価格帯からすると一次取得者層が改装して居住するには好都合な物件だとは思うが、現状での若い世代は共働きが普通。こうなれば通勤の都合上、両者に都合の良い利便地区が選ばれる。ましてや住宅余剰の時代である。今後の売却などを考えるとバス便は敬遠される第一の理由となろう。駅から徒歩10分以内でなんとか探したいと思うし、通勤時間は1時間以内が常識に成りつつある。こうして見てくると現役の間は賃貸でもと考える人も増えるはず。資産価値の構築はもう無理な時代に入っている。住宅ローンを抱えるだけ不安が増す時代に来ている。たとえ消費税が上がろうとも資産価値の減少スピードが速くては追いつかない。

私にとってはコーポラティブ第三弾の「安気な住まい」のプロジェクトを開始している。3月の説明会で5度目になるが、毎回、数人の参加者があり、住まいが気がかりだという実感は伝わってくる。しかし、住まいを選ぶ前に、コミュニティを育てるという試みがなかなか理解できないようにも感じる。というのも、参加者の方々が「土地は何処か」「建物は出来ているのか」などと、今にも家を買うがごとくに反応していて、「土地も建物も仲間づくりが済んでから」と答えると減なりされる。とりわけ高齢の方の反応がコミュニティに消極的で、それよりも「今すぐ入りたい」と気持ちが萎える。参加者の気持ちは善く解っているつもりだが、老後の生活というか今の生活を支えるのがやっとだという気持ちが、これから数年も掛かりそうなコミュニティづくりに気持ちが引いてしまう事になる。

だから本当はすでに準備している所に入って欲しいと思う気持ちもある。あらかじめ想定したコミュニティと経済環境と住まいを用意して入居できれば良いとも思う。しかし、それがかなわない。現状の制度の中では、多摩ニュータウンでそれを探すには有料老人ホームだって難しい。3ヶ月はクーリングオフだとしても、隣人の個性は見えない。最初は猫の子を被っていた人も3ヶ月を越える頃から牙をむき出す。どこのホームでも3ヶ月がキャンセルできる期限。居住者もそれがクーリングオフといって法律で守られる3ヶ月なのは知っている。だからその間はホームの管理会社が特別に気を遣うことも知っていて、その間に問題発言などしようものなら後のしっぺ返しが怖い。それが無くても何となく気になる。だから大人しいのだが、それ以降は自我が全開になる。

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人間の適応の限界に現状の住宅供給システムが付いていっていないことが原因。買うか借りるか、入居金を支払うかしかない選択に人々は迷う。買ってしまえばその後は運命的なもの。覚悟を決めて住み続けるしかないので、そこでは決断が難しい。ただ、その前に全てを決めることに躊躇する。だから3ヶ月なのだが、結局は「帯に短し、襷に長し」では仕方がない。人間の優柔不断に付いていくためには、もっとヒューマンなシステムでなければ選択すら無理な話。最後にはパニックになって誰かの責任にするしかなくなるのが顛末。

これからの時代は住宅が余るはず。そこで曖昧な人間のニーズにも適応できる仕組みが出来ないかというのが「安気な住まい」の主旨。それが出来ればこの上ない。さて、どんな住まいが出来るかがこれからの楽しみ。そして苦しみかもしれないが・・・。

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