中国廈門4日間、1日だけがフリーというツアーがJTBから出ていて、なんと1.5万円だと言うから、ついつい申し込んでしまった。目的は1日フリーを利用して、人が住み着いている土楼集落を訪ねたいという主旨。2日くらいあるとバスを乗り継ぎ安価に見学も出来るが、1日だけを有効に活用するために観光通訳付きの車をチャーターして1日を土楼三昧に費やした。先回は世界遺産の観光モデルとして修復しているものだったので、もっと原始的というか、住民主導で管理しているものを見てみたいという好奇心で訪れた。
客家族の要塞でもある土楼建築は、コミュニティを形成するための器でもあるのだが、現代風の居住性能は持っていないので、今では若い人は住みたがらない。多くの若者は村を捨てて都会に出る。日本の「三チャン農業」が言われた高度成長時代だが、1960年代と同様に、若者が都会に出て行ったのと同様な動きがある。生活の不便さを表すことに、客家土楼にはトイレがない。排泄物はそれぞれが木製の桶を持っていて、それに排便なりをして、翌朝、それを集めて畑の肥やしにするという。日本でも伝統的に汚賄車は「田舎の香水」を運ぶ道具だったし、天秤棒に大きな汚賄樽を担いで、ちゃぷちゃぷ言わせながら運んでいったのを記憶している。それだけ貴重な栄養価の高い肥料だという事だったのだが、次第に肥も化学肥料になり、人間の排出物も使われなくなった。客家土楼にも一部にトイレが備わったが、どうも集団で住むスタイルが次第に合わなくなってきて、見捨てられているという。
文化的な生活は古い建物を使い続けるためには必要な設備である。浴室もトイレも必要だし、エレベーターも必要かもしれない。土楼の中には宿泊室を設けて、民宿経営をしている所もあり、いわばマンションの管理組合が、宿屋経営をしているようなもの。泊まった人の情報を集めてみると、決して快適な一夜を過ごしたという報告はない。一度は不便さを感じながら泊まっても良いかもしれないが、毎日が土楼では辛いようだ。何事も限界が過ぎれば苦痛になる。以前、ドイツで300年以上も前の建物に泊まったことがあるが、そこはトイレやシャワー室は共同で出来るように設備されていた。現代人にとって、居住水準は広さだけではなく、設備も重要で、その設備が整っていると心理的にも安堵感が得られると思う。
今回のツアーだが、余りの安さに宿のランクは最悪かなと思って参加したが、実は設備的には三つ星以上。築後3年から5年ほどかなと思うほど新しく、再開発地区の中で最初に組み入れられたように立地していて目立たないが、しっかりとした設備があった。ただ、再開発中であるので周りにはスラムが隣接していて、その風景がまた日本人から見るとびっくりする。スラムに入っていくと小店が建ち並び、蛙やら川魚、活きた鶏、山に盛った野菜など生活の必需品は並んでいる、めっぽう賑やかだが、ガイドに聴くと、そこに集まっている人は田舎から出てきて、住み着くところが無いので、そこに集まった人々だという。客家土楼からの都会組もいるのかもしれない。
ちなみに、廈門では農村戸籍の人が高級マンションを買ったら都市戸籍が貰えるという。北京や上海はその制度はとっくに無くなっているのだが、廈門はまだ続いているという。中国では都市戸籍がないとまともな職にはありつけないと言うから、プレミヤ付きマンション販売も政策となるのだろう。廈門の人口が70万人だという。どんどん増えているしどんどんマンションも建っている。なんとなく、将来は香港やシンガポールのように立体都市に変貌するのだろうと思わせるに足る情報を今回は得た旅だった。
客家土楼の生活風景
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