住まい作りを提案するときには公営住宅に入居している人には奨めないようにしている。いや以前は奨めていたし、企画するプロジェクトにもお誘いした。しかし、止めた。何故か。それは高齢者にとって家賃が最低にランクされていて、年金生活者にはこの上ない経済環境を提供してくれるからだ。多少バリアーがあっても市場経済環境には勝てないほどに家賃が安い。基本的に高齢者の収入は年金のみで有れば、東京都の都営住宅ではせいぜい5千円から1万円くらいで入居できそうだ。民間の家賃体系ではあり得ない低価格が補償されていて、更新料も無ければ定期的な収入が相当増えない限り退去するには及ばない、安心の住まいなのだ。そんな居住環境を得ている人に無理強いして「安気な住まい」にお誘いしても意味がない。そう判断している。
かつて「永山ハウス」を企画していた折り、都営住宅に居住している男性が興味本位なのか説明会に来られたことがある。意見は様々言われていたのだが、結局の所、結論は都営住宅に勝るところは無しという事だった。長く公営住宅の建て替えや自治体の手伝いをやって来て、その辺りの事情も解っているし知り尽くしている。実は公営住宅に居住している高齢者も行政の無策ぶりに呆れて自ら何とかしたいとは思っているのだが、価格の安さから抜け出せない事情が、これを機会にハッキリ解ったことになる。私もそこで諦めた・公営住宅は高齢者にとって最高の生きる場所だからもう手出しはしないと・・・。
だったら全国にある公営住宅に優先的に高齢者を住まわせれば良いではないかという意見が出る。実は優先的ではないにしろ、高齢者が公営住宅に集中している。なぜか。それは低所得で持ち家を持たない家族しか申し込めないし、単身世帯の場合60歳を迎えないと入居申し込みが出来ないと言う仕組みになっている。従って60歳になってアパートでひとり暮らししている高齢者は100%申し込む。アパートの家主も老人に長居してもらいたくもないので応援するだろうし、公営住宅は高齢者を拒否できない。いわば孤独死OKの老人施設に移行するという流れが作られている。公営住宅の社会的な役割だとか福祉的な措置だとか言う前に、高齢者を拒否しないし、低家賃だという理由だけで集中する。供給戸数は限られているから空き家に申し込みが集中すると若い世帯は、はじき飛ばされ高齢者が集中する。これはイタチごっこ。単身高齢者が集中する公営住宅が全国に顕在化している。
結婚して子育てをしている高齢者は自宅を購入することが一般的である。しかし、独身で過ごした高齢者は賃貸居住が多い。必然的に公営住宅に入居する条件が整う。そして孤独死予備軍となる。政策的に高齢者向け優良賃貸住宅だとか高齢者に居住支援がある住まい作りを国は提案するが、焼け石に水。とりわけ単身世帯の多い大都市では対応が遅れて、大規模団地でも単身高齢者の山が出来るほど。こうなると手の施しようがない。
朗報を一つ。関東でも群馬、栃木辺りでは公営住宅の空き家が目立つ。人口減少に気を揉んでいる自治体が殆どで、市外県外からの転入者も受け入れている。市営住宅や県営住宅の空き家狙いで、物価の安い地方での生活の方が年金を有効に利用できると思う。私の場合も多摩ニュータウン地域で限界を感じたらそんな選択も有りかなと思っている。地方で畑を耕すのも良いか・・・。
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