多 摩ニュータウンでの生活が長くなると、いろいろなほころびも見えてきて、計画された都市がもたらす限界も可能性も共に共存する状況がある。また、こうした 状況を背景に多摩ニュータウンのビジネスチャンスに入ってくる業者も様々だ。その中で老人ホームの進出がある。以前から日本の老人ホームのあり方には問題 があるという警笛を鳴らしていて、いわば高齢者にとってデメリットでもある環境を作りうるシステムであることを問題視している。というのも『ドイツ人の老 後』坂井洲二(法政大学出版局)に触れて以来、その確信が強くなった。それは入居金の問題だ。建設費と同等の費用を終身利用権として販売する手法は、入居者が亡くなったり退去されて以降、二重取りになるのではないかという疑念だった。
多摩ニュータウンでも有料老人ホームが解禁され、かねてより老人ホームの「終身利用権」に疑問を持っていたなかで、東京都住宅供給公社が八王子市南大沢地区に平成8年(1996年) 「ケア付高齢者住宅明日見らいふ南大沢」を開設した。事業手法は施設の整備費用を賄うために建設費相当額を入居者に負担させるタイプで、15年 ほどで消却する方法である。運営は日本の有料老人ホームの生みの親、「社会福祉法人聖隷福祉事業団」であり全国に同様の事業手法の有料老人ホームを展開す る老舗中の老舗である。東京都がパートナーに選ぶのだから日本の基軸となる運営システムを持つ組織と協力するのはやむを得ないが、実態としては長寿命な建 築物を持つ施設であり、15年ほどで建設費が埋め合わせた後も同額の入居金を徴収するというシステムに疑問を持たないのが不思議なくらいである。
一般的に有料老人ホームの当初費用は「入居一時金」と「終身利用料」に分けられる。「明日見らいふ」の場合は65?71歳の方が40?の部屋に入居する場合は4,000万円ほどの入居金が必要で、その他に特別介護費用の一時金として630万円を支払うとのこと。合計4,630万円で40?と考えると、もっと駅に近くても新築で100?のマンションが3,000万円台で買えることを思うと、やはり高額だ。むしろ外部から介護などのサービスが提供されれば、何も老人ホームにこだわることは無いように思う。
この場合、バブル期に建設して設定した入居金だから、いまさら減額できないと言う仕組みがあるのかもしれないが、どう見ても不可思議な価格設定だと言えよう。そして入居金の15%は90日ルールにより守られる様ではあるが、実態としては事業者側が何とか90日間はスペシャルサービスを提供して退去させないよう努力するということになるだけで、根本的な「消却」という観念から離脱することは出来ないようだ。何はともあれ、入居させたとたんに入居金の15%が事業者の収入になるのだから、おいしい話で後は消却期間を何とか過ごせば全額が事業者の収入になるのだ。だから、消却金額がある間は生きてもらい、その後は早々に退出願うのが事業者の本音になるとしても不思議ではない。
そ もそもこうした施設を創ってはいけないと言うのが私の考えだし、先の坂井洲二氏の考え方である。全く同感する。そろそろ略奪ビジネスから共生ビジネスに転 換しようではないか。日本の有料老人ホームの先駆けを創った聖隷福祉事業団の長谷川保氏は結核患者の受け入れとして、当時は嫌われていた結核療養所を造る のに患者の家族に投資してもらい、その施設をその後の患者に利用してもらう仕組みで始めたのだが、いつの間にか次の患者に対しても同額の費用を負担させる 仕組みになったことを悔やんでいるのではないかと思う。そろそろストックを活かした工夫が欲しいものである。
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