1995年8月21日第1刷発行だからかれこれ15年も前の著書になる。フランスで単身子育てを経験して、フランスから家族の有り様をメッセージする筆者の見識で、家族のあり方を考えさせられた記憶がある。私が手にしたのは2000年8月の第8刷だったから、それから10年になる。未だに新鮮な印象が残っていて、社会が家族に成すべきことや人の生き様とそれを支援する社会の仕組みのあり方を示唆してくれる。母一人子独りは大きなハードルではあるが、社会が支えるべき第一義のステージで、社会人としてすくすくと育つ子育て環境が無ければならないし子育てを支える周りの支援は欠かせない。そこには教育が必要になる。
2005年フランスで若者の暴動が発生した。25歳以下の失業率が20%を超え、ただでさえ高い失業率10%を若い世代が引き上げている有様に対する不公平感が高まり、怒りを覚えた若者が声を荒げた。とりわけ移民の子達は就労には排他的な環境があることを気に病んでいる。多くの移民達が社会住宅(日本での公営住宅)に住む。その環境は集約的でゲットーのようにも見える。子育てする親が十分なフランス語を喋らないので必然的に子供もフランス語を使えきれない。だから就労チャンスは減る。隣戸の家庭環境が崩壊すると隣接に伝染するし、限られた人々の中での成長は大海を知らずに狭い世界で終始する。やはりここでも教育が大切になる。
東大に入学する子供の親の経済力を評価した記述を散見する。子供の環境は経済で決まるという弁だが、教育を金銭と相関させる考え方はいただけない。教育は自由で無ければならないし、そうした社会に進歩させることが重要だ。そして東大が目標で合ってはならない。むしろ世界には多くの優れた教育の場がある。だから世界に向けた子育てが必要だし世界にチャレンジする教育が望まれる。それは学習塾ではない。海外を見て海外を知ることである。そのことで自らの生きる方向性が見えてくる。
こうした教育を実践しているのがデンマークである。高校を卒業して大学や社会に出る前に海外に旅に出るなどの研修期間が用意されている。もちろん生活保障もされているので親の負担を強いない。国が補償して子供達を冒険させる。それによって自らの可能性と自立心を育てるのだ。こうした経験を通して大学を選び、または就労に付く。大学の費用は無料だし生活費も支援があるから、たとえ就労を止めて大学に入っても不安がない。働いて貯蓄して大学院にチャレンジするという苦労はない。だから経済的なハンディキャップは無くなる。「東大は金次第」という恥ずかしい文化は一掃したい。
日本人のノーベル賞受賞者の多くは海外に学んでいる。それだけ住みにくくなった日本社会がここにある。日本の子供達はフランスの子供達と同様に憤りを示さないのか、与えられた環境で満足しているのか。多勢に無勢で声が出せないで居るのか。子育ての中から新たな子供達の息吹を育てて行きたいと思う。その為には新しい家族の実現が欠かせない。
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